事例
DX推進に向けたクラウドネイティブなプラットフォーム構築
小売業
- システムごとにインターフェースが異なっているためデータ連携が困難
- 簡単な改修でも多数のシステムに影響を与えるため工数がかさんでしまう
- インフラ管理ルールが不明瞭
- クラウド型インテグレーションプラットフォームによってシステム間データ連携が容易に
- APIを利用することで、コストや工数を抑えた開発が可能に
- データ活用やシステム開発の内製化によって店舗業務の効率化や顧客満足度向上に貢献
導入背景
店舗業務の生産性向上と顧客満足度向上のためには柔軟なIT基盤が必要不可欠
明治時代に埼玉県で創業した青果店からはじまった、スーパーマーケット「ヤオコー」。グループ企業も含めると関東圏に200店舗近くを展開し、上場している食品スーパーマーケット事業者の売上ランキングでは6位、営業利益率では2位と、堅調な業績を達成しています。
「豊かで楽しく健康的な食生活提案型スーパーマーケットの充実」を経営方針に掲げ、生鮮やデリカをはじめとする商品の美味しさ、鮮度、出来立て作り立て、フレンドリーな接客に力を入れています。特に近年は若いファミリー層への対応強化を目指し、2021年に開店した旗艦店「ヤオコー和光丸山台店」は、第35回「STORE OF THE YEAR 2022」にて1位を受賞するなど、業界も注目する存在です。
今後、好業績を維持していくためには、積極的なIT投資による顧客サービスや多岐にわたる業務のシステム化、データを重視した経営を推進していく必要があります。そのため、2020年より、変化するビジネスに素早く適応するため、外部に依存することの多かったシステム構築・運用の内製化を進めてきました。その背景について、同社のデジタル統括部部長務める小笠原 暁史氏は「ビジネスが変化するたびにシステムも追加や改修が必要になります。店舗業務の効率化や顧客満足度向上のためにもより一層のテクノロジー活用が重要と考え、必要なスキルや知識を社内に蓄積するための組織変革に取り組みはじめました」と語りました。
従来は各システム間のデータ連携が密に結合しており、何をするにもインターフェースの追加・改修・削除の際のコスト負担が大きく、汎用性も乏しいことが課題となっていました。そのうえ、増え続けるインターフェースの管理も煩雑化し、システム環境の改善は急務となっていました。
選定理由
機動力と柔軟性を求めてオープンストリームと開発を開始
ヤオコーは社内の技術力を高めつつ迅速にビジネスを変革していくため、並走しながらさまざまな課題を解決できる機動力と柔軟性を備えたテクノロジーパートナーを求めていました。これまで開発を依頼していたプライムベンダーのメンバーは高い技術を持っているものの、組織的に複数人を経由する指揮系統のため機動力に欠けており、パートナー候補には適していませんでした。
そこで、データ・ドリブン経営のための新たな基盤を迅速に開発できるパートナーとして、小笠原氏が白羽の矢を立てたのがオープンストリームです。ヤオコーでは、オープンストリームが提供する業務システムのためのアプリケーション開発・実行環境「Biz/Browser」を利用しており、すでに付き合いがあったことも決め手の一つでした。また小笠原氏自身も、前職時代からオープンストリームが高い水準のサービスを提供していたことを知っていました。
「オープンストリームのエンジニアの方達はレベルが高く、前職のメンバーが頼りにしていたことを思い出し、依頼することにしました。外部ベンダーへの依存から脱却して内製化していくために、私たちのチームに加わってもらうことにしたのです」(小笠原氏)
そして、小笠原氏を含め、オープンストリームのメンバー2名を加えた4人のチームで「クラウド型インテグレーションプラットフォーム」の構築に着手していきました。
チームビルディング
内製チームによってクラウド上にインテグレーションプラットフォームを構築
クラウド型インテグレーションプラットフォームは、各種データを適切に変換し、AWSサービスを利用して、連携先の複数システムが自由にデータを取得できる仕組みを備えています。従来のようにシステムごとの専用インターフェースではないため、同種データを利用するシステムが増えた場合でもプラットフォーム自体の改修は不要となります。また、過去データも自由に取得できるようにして様々な場面での用途を広げました。
4人でスモールスタートした小笠原氏のチームも徐々にメンバーが増え、2022年11月の時点では16名を超える組織にまで拡大しました。データ基盤、インフラ、マイクロサービスと、機能別にチームも細分化されています。オープンストリームのメンバーもそれぞれがチームの一員として密に連携しながら、柔軟かつスピーディにプロジェクトを推進してきました。
「いくつかある内部システムのデータ連携の汎用化のための土台を、ヤオコーの皆様と一緒に構築しています。これまでの複雑な連携を改め、APIやS3の活用によってシンプルな連携ができるハブのようなプラットフォームになりました。また、AWSリソースの可視化による最適化など、プラットフォーム自体の運用もヤオコー様と協議しながら進めていきました」(オープンストリーム チームリーダー)
多様なデータをさまざまなシステムに連携できるクラウド型インテグレーションプラットフォームは、2022年5月に全店展開されたAI型の自動発注システムのためのデータ基盤としても利用されています。小笠原氏は「グロッサリー部門のドライ品と日配品の発注はAIが自動的に行います。高精度な発注を行うためには商品マスタや発注データに加え、過去のデータや天候データなど、膨大な情報をAIに与える必要があります。そのため、根幹となるデータ連携について私たちが把握できている必要があります」と述べました。
さらに、新たなPOSシステムにおいてもこのプラットフォームが利用されており、POSシステムを通じて顧客の購買データを収集・取得することができます。分析や連携によって店舗運営に活用できる、ヤオコーのビジネスにおいて中核を支えるシステムとなっていくものです。
導入効果
インフラの可視化でコストを最適化。データ基盤の整理で売り場の効率化も実現
オープンストリームのメンバーと協業しながら内製化が進んだことで、さまざまな効果が現れました。小笠原氏は「システムのデリバリースピードが向上しました。これまでインターフェース1つ作るにも詳細設計などに時間がかかっていましたが、今ではそれを大きく削減できています。近い距離で共に課題に取り組むことで、解決できる量が従来より増えました。AWSリソースをはじめとして、様々な情報が可視化されたことでコストの最適化も実現し、社内のメンバーにも新たなナレッジが蓄積されたことは大きなメリットです」と評価しています。
クラウド型インテグレーションプラットフォームは今後もさらに改善を加え、マイクロサービス的な活用を予定しています。たとえば、業務用端末を専用のハンディターミナルから、パートナーさんやアルバイトの方が使い慣れたスマートフォン上のアプリに移行することで、仕事への慣れや教育コストの改善ができ、現場の生産性も向上するといったことも期待できます。データウェアハウスやデータ分析基盤においても、より柔軟かつ迅速に細かな粒度でデータ活用できるよう、この基盤を拡張していく予定です。
ヤオコーのDX推進は今後も続き、新しいメンバーの採用も強化しています。メンバーは「サービス向上や業務改善に向けて、各分野で新しいことに挑戦、改善していきたいという強いマインドを持っています」と述べ、「さまざまな課題があるので、ひとつひとつ解決していくことにとてもやりがいを感じられる仕事だと思います」と、その魅力を語りました。
スーパーマーケット業界で高い業績を誇るヤオコーは、さらなる発展や労働力不足への対応のためにデジタル活用は必須だと考え、自社のソフトウェアプロダクト作りに注力していく方針です。小笠原氏はオープンストリームの協力のもと、自社の課題を解決し、ビジネスの成長を加速させ、これからも内製化の領域を拡大させたいと、今後の協業についても期待を寄せています。
株式会社ヤオコー
デジタル統括部部長
小笠原 暁史氏