事例

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【トップ対談】水道クラウドサービスの先駆者と語る、次代の常識へのチャレンジ

メタウォーター株式会社
業種

電気・ガス業

課題

  • 上下水道事業を運営する大半の地方自治体の少子高齢化・人口減に伴う収益減と熟練技術者の不足
  • 省エネ・省資源を初めとする環境負荷の低減や、気候変動への対応、安全・安心への要求など社会的要請の高まり
  • 上下水道事業の抱える課題に対し、トータルなサービスを提供できる民間企業の不在
キーワード
デジタルトランスフォーメーション クラウド IoT

浄水場や下水処理場、資源リサイクルごみ施設向け設備などの設計・建設、運営・管理などのトータルソリューションを提供するメタウォーター株式会社。同社が2011年から提供する、上下水道事業の維持・向上を提供するクラウド型のITサービス「Water Business Cloud(以下、WBC)」は、2013年ごろからオープンストリームが開発をサポートしています。このたび、WBCを考案したメタウォーター代表取締役会長 中村 靖氏と、オープンストリームホールディングス代表取締役社長 吉原 和彦との対談の機会をいただき、WBC開発の背景や事業方針、今後のデジタル活用への期待について意見を交換しました。
(記事中の役職名は2022年3月当時のものを記載しています)


「保有から利用へ」水道の監視・管理システムを変えた先駆者

メタウォーターは、人々の生活や産業になくてはならない水・環境事業に携わる企業グループとして、さまざまな技術とノウハウを融合した事業を展開しています。最近では、2021年に民間企業として宮城県の上工下水を管理する官民連携運営事業の担い手となり、2022年にはモザンビーク共和国の吸水・衛生状況を改善するための車載式セラミック膜ろ過装置を受注するなど、国内外で環境保全や地域貢献の取り組みを進めています。

メタウォーターが2011年から取り組んでいるWBCは、水環境に関わる、機器の管理・点検・監視・レポートなどをクラウド環境で利用できるITサービスです。それまで、水道事業に関わる事業体では、機器や設備などを購入して管理する必要がありました。中村氏は2010年頃に、さまざまなITサービスがクラウド型で提供され発展していく姿を見て、水道業界にも「保有から利用へ」といったサービス化の波が訪れると予見し、WBCを構想します。

「お客さまは 水道の監視制御システムが必要なわけではなく、安全に運転したいだけです。当社は設備の販売でビジネスをしてきましたが、これからは水環境に存在する全てのデータを収集・加工・分析し、持続可能な上下水道事業を実現する『サービス』を提供していくことが肝要と考えました。利用した分だけのサービスの支払いであれば、設備を購入したくても投資できない小規模の事業体にも提供ができます」(中村氏)

WBCは、水道の監視制御システムに対して、現場にIoTのセンサーを導入して、クラウド上へデータを集約する仕組みを構築した広域監視サービスを、2011年に業界に先駆けてリリースされました。中村氏は、WBCの継続利用を促すためにも、魅力的なコンテンツを提供しなければならないと考えていました。単なるデータ提供にとどまらず、目的に応じて加工や分析を行うことで、情報の見える化やオープンな情報共有、自動化による作業負荷の軽減、長期シミュレーションによる予測といったことを実現する、スマートに統合管理できる監視サービスの必要性を感じていたのです。

現在は、監視データの自動集計や帳票を管理する仕組みや、定型業務の効率化、現場情報の収集、納入実績台帳、スマートデバイスによる保守点検データ入力や、計測値をもとにして管理に役立てる相関監視、画像監視サービス、性能劣化シミュレーションなど、水の管理にかかわる数々のサービスをラインナップしています。オープンストリームでは、2013年(当時は、その後オープンストリームと合併するメノックスが担当)からWBCのプロジェクトに関わり、これらのサービス開発を支援しています。


お客さまとともに試行錯誤し、挑戦する姿勢に信頼を寄せる

中村氏が構想を始めた当初は、現在ほどクラウドサービスに対する信頼はなく、セキュリティ面なども含め、サービス開発に懐疑的な意見もありました。中村氏は、「当時、社内にはIT分野に長けたエンジニアがいませんでしたので、WBCの構想をいろいろな会社に相談しました。でも、皆さん『雲をつかむような話ですね、クラウドだけに……』と、あまり真剣に受け止めてもらえませんでした。ただし、別のクラウド案件でご一緒したオープンストリームさんだけは、こちらの要望を飲み込んで、試行錯誤してくださいました。その姿勢が印象に残っており、WBCもお願いすることにしたのです」と、オープンストリームへの依頼の理由を語りました。

オープンストリーム 代表取締役社長の吉原は「当時はクラウド黎明期で、スマートフォンのアプリやビッグデータ解析、IoTデバイスなども発展しているところで、私たちも手探りでさまざまなシステムを作っていました。当社のエンジニアたちは、時代の変化のなかでお客さまといっしょに学びながらチャレンジしていく、そんなマインドを持っています」と、企業文化について触れました。

メタウォーター代表取締役会長
中村 靖氏

WBCプロジェクトでは、プラント監視、トレンド管理、帳票管理、異常の通知などを簡単かつ安価に利用できるようにしたいと考えていました。中村氏は「現場ではポンプ や水質計などの機器で計測するのですが、それぞれの機器が語りかけてくるイメージで、SNSのタイムラインのように必要な情報を表示させたのです。これは『Smart Field Viewer』というサービスになるのですが、この開発が、WBCの流れを変えた転換点だと思っています。それから、設備機器の設置場所を管理できるCAN (Curation Address Number)を考案したのも大きな突破口です。これまでは標準化された機器のIDがなかったので、URLのように場所・部屋・機器といった管理をしていく仕組みを作りました」と、サービス開発時の工夫について説明しました。

こうしてWBCのサービスが形作られ、管理するデータが増えてくると、それまで利用していたリレーショナルデータベースでは、検索時などに満足のいくパフォーマンスが出せなくなってきていました。そこでオープンストリームでは、より高いパフォーマンスを出せるNoSQLへの移行を実現し、さらに、WBCプロジェクトでは現場の作業員の機器点検ノウハウをサービスにうまく生かしたい と、機器の相関監視サービスの開発に着手します。

オープンストリームホールディングス代表取締役社長
吉原 和彦

中村氏は「たとえば、Aという装置の測定値とBという機器の測定値を見るだけで、Cという装置の情報を計測せずに判断することができます。すべての機器にセンサーをつける必要は無くなりますが、ロジックは複雑です。これをもっと簡単にしたいと思ったのです」と語ります。相談を受けたオープンストリームのエンジニアチームはこの複雑な要件を解決する方法を試行錯誤のうえに考案し、実現しました。

吉原は「当社では、プロジェクトのメンバーを要件に応じて組み替えます。これまで様々な業界トップクラスのお客さまの成功を実現してきた情報技術のエキスパート集団でもある当社のメンバーから、与えられた課題に対して最もその分野が得意なメンバーを割り当てながら、お客さまと共にチャレンジして解決していけることは重要なポイントだと思っています」と、開発体制の考え方について説明しました。


新しいチャレンジが、未来の常識を切り開く

2011年にリリースされたWBCは10年以上が経過した2021年時点で全国約320の水道事業体が活用しています。開発当初は懐疑的だったクラウド型の水道サービスも、現在は特別なものではなく、競合他社のサービスも続々と登場し、当たり前のように利用が進んでいます。大規模な予算を割くことができない、小規模の事業体に気軽に使ってもらうといった目的も果たしています。

中村氏は「2011年、下水道展という業会最大のイベントで、クラウドサービスを展示していたのは当社だけでした。しかし今、展示会に行くと、クラウドを使ったサービスばかりです。その中でWBCは関係省庁から委託を受けている仕事もあり、導入実績はナンバーワンです。クラウドサービス以外に、センサー取り付けの業務依頼も受けているほか、多くの自治体さまから上下水道の運営管理に関わる事業を任されるなど、WBCをやっているからこそ得た社会的信頼もあります。皆さんの苦労が実ってよかったと思っています」と話しました。

WBCプロジェクトは、オープンストリームにとっても大きなチャレンジでした。吉原は、これまでの取り組みについて「オープンストリームホールディングスのビジョンは『つぎつぎに、次の常識を』です。私たちは、2000年前半の頃から、新しい技術を使い、常識ではないものにチャレンジし、いまは常識となっているサービス/システムが多くあります。WBCもそうです。こういったご縁をいただけたことに対し、私たちは本当にお客さまに恵まれていると感じます。そして、これからも新しいチャレンジをし続けて、未来の常識を作っていきたい」と新たな決意を述べました。


ITは、効率化や利益追求ではなく、人に幸せをもたらすもの

WBCの成功により、多くの水道関連事業体が、監視・管理、データ分析などによって負担の軽減や効率化を実現しています。しかし中村氏は、お客さまに対するITサービスの価値は、効率化や利便性だけではないと述べました。

「当初私もデータ解析による予測など、利便性の追求を考えたこともありますが、ITの価値は信頼の証明にあると気付きました。デジタルでデータを残すことは、強力な説得力があります。ドライブレコーダーでも、ワクチン接種アプリでも、データには信頼が寄せられています。これは効率化よりも非常に尊いことだと思います。『晴れのち曇り』……かつては悪いことをしたらお天道さまが見ていると言いましたが、今はクラウドが見ているという時代になったのです」(中村氏)。

民間企業として、生命の源である水に携わるには、自治体の方や水を利用される市民の皆さんからの信頼を得なければならず、そのためにITがあるというのです。中村氏の考えを受けた吉原は「ITを信頼だと捉える方は、あまり多くありません。業務効率や、顧客獲得などへのIT活用を考える人がほとんどです。WBCの取り組みには、保有から利用へといったトレンドを読みながら、社会課題を解決するチャレンジがありました。そこにさらに信頼のためのITであるという考え……中村会長の先見の明に加え、高い視座をお持ちであることに非常に感銘を受けました。私たちもこの考えを理解しながらいっしょにサービスを作っていけるパートナーになれるよう努力していかなければなりません」と応えました。

最後に中村氏は、デジタルやIT、DXと呼ばれるものは、皆が幸せになっていくための道具のはずが、持てる者と持たざる者の分断につながっていると指摘し、これからのテクノロジーに期待することとして、次のメッセージを残しました。

「デジタルやITは競争のためではなく、世の中のためになることを証明してほしいのです。これからSDGsやカーボンニュートラルなどの取り組みによって、社会構造が大きく変わると思います。例えば、これまであった自動車整備の仕事はEVの時代にはモジュール交換やソフトウェアアップデートなどに取って代るのではないでしょうか。そういった時代に、新たな働き手のニーズをとらえ、誰も取り残さない、富の再分配をする新しいエコシステムを作っていくのが次のデジタルの仕事です。オープンストリームのような会社がそのような素敵な未来を作っていく中心にいると考えています」(中村氏)

ユーザープロフィール
メタウォーター株式会社
2008年(平成20年)4月1日、日本ガイシの水環境部門(NGK水環境システムズ)、富士電機の水環境部門(富士電機水環境システムズ)の対等合併により発足した、国内初の水環境分野における総合エンジニアリング会社。
メタウォーター株式会社

メタウォーター株式会社

代表取締役会長

中村 靖氏

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