不安6「ビッグデータを扱うエンジニアを自社で育成できるのか」を解消する

ビッグデータ活用を引っ張るのは、一芸に秀でた「提案型人材」

日経BPイノベーションICT研究所
上席研究員
田中 淳

この連載では、ビッグデータ活用に関わる「不安」をいかに取り除き、ビジネスの価値を最大化するかについて説明しています。取り上げているトピックは以下の通りです。

ここまで不安1から不安5までを取り上げてきました。前回は不安5に関して、ビッグデータ活用プロジェクトをどのように運営すればいいのかを説明しました。

特にAI(人工知能)やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の活用を前提とした昨今のビッグデータ活用プロジェクト(第3回をご覧ください)では、試行錯誤しながら解を模索していく「探索型」になるケースが少なくありません。その場合、アジャイル開発や見える化のためのツールなど、従来のプロジェクトマネジメントとは異なる手法や道具が有用だとお話ししました。

この連載は早くも最終回を迎えました。今回はビッグデータ活用プロジェクトを牽引する人材に焦点を当てます。まず少し大きな視点で、IT人材の現状を確認しておきましょう。

先端IT人材は2020年に4万8000人不足

IT人材が足りない──。この文をお読みの皆さんの中で、こうした声を聞かれたり実感していたりする方は多いのではないでしょうか

確かに、複数の統計が日本でのIT人材不足の実態を示しています。経済産業省が2016年6月に公表した「人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」はその一つです。

この調査によると、2015年の時点で約17万人のIT人材が不足しています。状況は年を追うごとに深刻化し、2030年には約59万人、多ければ約79万人不足すると予測しています。

調査会社のガートナージャパンが2017年1月に発表した「2017年以降のIT人材に関する展望」でも、日本のIT人材は2020年までに30万人以上不足するとの予測を示しています。「多様な産業でデジタル化が進展する結果、IT人材をめぐる熾烈な競争が生まれ」ている状況が背景にあるとしています。

これらの予測は今後の景気やIT需要などによって変わるでしょうし、都市圏とりわけ東京と地方では状況が異なると思われます。ただ少子高齢化が加速しているいま、全体としてIT人材は不足しており、その状況はより加速すると捉えられます。

「質」の面でも人材不足が顕著

この連載で取り上げているビッグデータ活用プロジェクトを担う人材についてはどうでしょうか。経産省の調査では、IT人材全体に加えて「先端IT人材」の状況を取り上げています。

ここでいう先端IT人材とは、ビッグデータやAI、IoTといった先端ITのサービス化や活用を担う人を指します。ビッグデータ活用を主導する存在と考えていいでしょう。

不足しているのは先端IT人材も同じです。経産省は2016年時点で約1万5000人が不足しており、2020年には約4万8000人が不足すると予測しています。市場の急速な伸びにIT人材の供給が追い付かないからだといいます。

ここまではIT人材不足の状況を「量」で捉えてきましたが、人材の「質」についてはどう考えるべきでしょうか。総務省が2016年3月に公表した報告書「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」を見てみましょう。

報告書では、有識者に対して「AIの活用が一般化する時代に、人材に求められる重要な能力」を尋ねています(図)。

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業務遂行能力や基礎的素養よりも「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」や「企画発想力や創造性」がより重要である、という結果になっています。

この結果を前回見た内容と重ね合わせてみましょう。AIやIoTなどのプロジェクトは、答えを歩きながら探していく「探索型」になるケースが多くなります。そうしたプロジェクトを引っ張る人材には、主体性や行動力、企画発想力がより求められる。このように言えます。

誤解してはならないのは、主体性や企画発想力だけでなく、業務遂行能力や基礎的素養もやはり大切だという点です。同報告書で、米国の就労者に「AIの活用が一般化する時代に、人材に求められる重要な能力」を尋ねたところ、過半数(51.9%)が業務遂行能力を挙げています。ここには情報収集能力や課題解決能力も含まれます。>

ビッグデータ活用を進める人材の「量」は今も不足しているし、今後はその傾向が強まる。一方で、こうした人材には業務遂行能力や基礎的素養に加えて、主体性や企画発想力といった「質」が求められる。様々な調査結果から、こうしたことが見えてきます。

ビッグデータ活用を引っ張るのはこんな人材

ただでさえ、ビッグデータ活用を進める人材の「量」が不足している現在、「質」の高い人材をいかに確保するかが大切です。今度は視点をガラリと変えて、ヒトに焦点を当ててみましょう。探索型プロジェクトを引っ張っていける「質」を備えている人材とは、いったいどんなヒトなのでしょうか。

ここで二人のエンジニアを紹介します。オープンストリームの戦略技術推進本部に所属する奥田博康氏と石田真彩氏です。

戦略技術推進本部の役割は、顧客とのやり取りを通じて、ビッグデータやAI、IoTといった先端IT(同社は戦略技術と呼んでいます)を活用したシステムの構築案件につなげていくことです。同本部を統括する両角博之本部長は、「特定領域に関する深い専門性に加えて、顧客とのコミュニケーション力が大切」と強調します。

奥田氏と石田氏は同本部の主力メンバーで、先端ITの知識や経験とともにコミュニケーション力を併せ持っています。同社のアプリケーションエンジニアに対して、「クラウドという『武器』を持たせる」(両角氏)ための研修も担当しています。

奥田氏はサーバーサイドJavaに始まり、Webアプリ開発、サーバー管理、仮想化、ビッグデータ処理で注目を集めたOSS(オープンソース・ソフトウエア)の「Apache Hadoop」などをいち早く手掛けてきました。現在はAmazon Web Service, Inc.の「AWS(Amazon Web Services)」やHadoopなどを利用したビッグデータ処理全般を担当しています。

同氏はユニークな経歴の持ち主。ギター製作を学んだあと、いくつかの職を経て、現在の会社に入ったそうです

石田氏はJavaやWebアプリ開発、データ解析支援・運用のほか、「マルチクラウドの知識と経験が強み」と言います。AWSやの「Azure」、IBMの「Watson」、グーグルの「GCP(Google Cloud Platform)」などを実際に触った経験があり、「同じAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)でも各社でこんな違いがある、と説明できる」(石田氏)。現在は機械学習やコグニティブサービスの活用支援もカバーしているそうです。

もともと哲学科の出身で、「Excelさえ使ったことがなかった。卒論も手書き」(石田氏)。ある説明会でHTMLに触ったのがエンジニアとしての経験の始まりとのことです。現在の会社はSIer、ベンチャーに続いて3社目。ベンチャーでは「契約から提案、プリセールス、システムの開発、テスト、納品、運用保守まで、一通り経験を積んだ」(石田氏)と言います。

相手が言うことをあえて「壊す」

二人には技術面はもちろん、それぞれ独自の強みがあり、日々の活動を通じて磨いています。

相手が言うことをあえて「壊す」。奥田氏は案件に入り、顧客とやり取りする際に、こう心がけているそうです。今の業務やビジネスがどうすればより良くなるのか、そのためにどんなデータがあり、どう処理すればいいのか──顧客の希望を聞きつつ、一緒になって考えていくのが奥田氏の役割です。

その際に、言いたいことは歯に衣を着せずに言うそうです。「他社のエンジニアに比べると、はっきり言う人だと思われているのではないか」と奥田氏は話します。

そういう行動を取るのは、それが顧客のためになると考えているからです。顧客が誤解したり、過剰な期待を抱いたりしたまま新たな技術や手法を採用するのは、互いにいい結果をもたらしません。技術に対する深い理解をベースに、言うべきことをちゃんと言う姿勢が、結果的に互いにとって良い結果をもたらすわけです。

奥田氏は、こうした行動を通じて「顧客に気に入ってもらえることが多い。顧客の他の部署からも相談されたりする」そうです。こうしたコンサルティング力が自分の強みだと言います。

一方、石田氏の強みは豊富な人脈です。日本Javaユーザグループ、関東Java女子部、PyLadies Tokyo、Geek Women Japanなど複数のエンジニアコミュニティに運営スタッフとして参加。その結果「普通に仕事をしているだけでは会えないような人と、深くつながっている」(石田氏)とのことです。

例えば、あるトピックについて知りたいと思ったとき、Twitterで一言つぶやくと、「(開発者向けQ&Aサイトの)「スタック・オーバーフロー」と同じように、Javaのチャンピオンからすぐ回答が得られた」(石田氏)そうです。

2017年1月には、マイクロソフトから「Azure」カテゴリでMicrosoft MVPに認定されました。JavaやPythonとAzureを組み合わせたシステムに関するコミュニティでの活動や登壇活動が認められたからです。

二人に共通しているのは、エンジニアとしての喜びを感じながら仕事をしていること。奥田氏は「自分が調べた新たな技術が顧客に役立ったと実感できたとき、エンジニアとしての喜びを感じる」、石田氏は「知識を形にできるのがうれしい」と話します。

「いち早くやろう」とする文化が根付いている

二人のエンジニアの話から、ビッグデータ活用を引っ張る人材像が浮かび上がります。「ここは負けない」という専門分野を持つ一方、問題意識を持って能動的に生き生きと動く。一芸に秀でた「提案型人材」と呼べるでしょう。

奥田氏や石田氏のようなエンジニアが生き生きと活動し、力を発揮しやすくするには組織の雰囲気やバックアップ体制も欠かせません。両角氏は、「当社が得意とするのは世の中に事例がないもの。これからはやりそうな技術を、出た瞬間にいかに早くつかむかが勝負。それができるようメンバーをバックアップしている」と話します。石田氏は自分の所属する組織を「新しいものに対するフットワークが軽く、『いち早くやろう』とする文化が根付いている」と表現します。

両角氏がもう一つ心がけているのは、メンバーが「技術偏重」にならないようにすることです。「新しい技術を追う楽しさはもちろんあるが、顧客に使ってもらい、ビジネスに貢献できて初めて、その技術は価値を持つ。この点について、メンバーとよく話している」(両角氏)。

ここで「ビッグデータを扱うエンジニアを自社で育成できるのか」という問いに戻りましょう。先ほども触れたように、ビッグデータ活用を進める人材の「量」が不足している現在、「質」の高い人材をいかに確保するかが大切です。仮に確保できたとしても、奥田氏や石田氏のようなエンジニアを通り一遍の教育・研修で育成するのが困難なのは明らかです。

ユーザー企業はまず、「自社で育成するのが適切か?」を考える必要があります。AIやIoTの活用を軸としたデジタル戦略を会社として重視しているのであれば、自社で人材を確保するのが適切かもしれません。ただ、デジタル技術はめまぐるしく変化しており、知識や経験はすぐに陳腐化しかねません。他社の協力を得るという選択肢もあり得ます。

自社で育成するのであれば、エンジニアが生き生きと活動し、力を発揮しやすい環境を実現できるかどうかが大切になります。「既存システムのお守りで手一杯」という状態で、エンジニアが力を発揮するのは困難でしょう。

ここまで見てきた例を参考にしつつ、まずは自社の探索型プロジェクトを引っ張れる人材像を明確にする。そのうえで、人材の確保・育成策を考えていくのが有効だと思います。

6回にわたり、ビッグデータ活用に関わる「不安」をいかに取り除き、ビジネスの価値を最大化するかについて説明しましたが、いかがだったでしょうか。

ビッグデータという言葉自身は一般的なものになりつつありますが、多くの企業にとって、データ活用はまさにこれからの状況にあるのは第1回で説明した通りです。

読者の皆様がビッグデータをうまく活用し、ビジネスを促進できることをお祈りします。本連載がその一助となれば幸いです。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

ビジネス価値を最大化したいなら要確認! ビッグデータ、6つの不安を解消する

第1回連載記事:ビッグデータに今から取り組むのは遅すぎないか

第2回連載記事:ビッグデータ活用に必須! あなたが知らないOSSの実力

第3回連載記事:人工知能・IoTの時代はもう来ている、「まだ先でいい」の発想は危険

第4回連載記事:クライアント環境に要注意! できれば避けたい「人間BI」

第5回連載記事:ビッグデータ活用は「探索型」が中心、ウォーターフォール型が不向きなケースも

第6回連載記事:ビッグデータ活用を引っ張るのは、一芸に秀でた「提案型人材」

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