不安4「既存システムをガラリと変えないと実践できないのでは?」を解消する

クライアント環境に要注意! できれば避けたい「人間BI」

日経BPイノベーションICT研究所
上席研究員
田中 淳

この連載では、ビッグデータ活用に関わる「不安」をいかに取り除き、ビジネスの価値を最大化するかについて説明しています。取り上げているトピックは以下の通りです(内容は変わる可能性があります)。

不安1:ビッグデータに今から取り組むのは遅すぎないか(掲載済み)

不安2:システム構築に多額の費用がかかるのでは?(掲載済み)

不安3:AIやIoTの活用イメージを描くのが難しそう(掲載済み)

不安4:既存システムをガラリと変えないと実践できないのでは?(今回)

不安5:プロジェクトマネジメントの進め方は従来通りで大丈夫か

不安6:ビッグデータを扱うエンジニアを自社で育成できるのか

ここまで不安1から不安3を見てきました。第1回ではビッグデータへの取り組みはむしろこれからが本番、第2回ではOSS(オープンソース・ソフトウエア)の活用が有効、第3回ではAI(人工知能)やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)を見据えた活用シナリオを考える必要がある、といった点をお話ししました。

ビッグデータ活用システムを作るに当たり、既存システムとの関係をどう考えるべきか。これが今回のテーマです。

ビッグデータ活用のために新規構築は必要?

ビッグデータ活用に挑戦したいと考えていて、「業務にIT(情報技術)を全く利用していない」という企業はまずないでしょう。規模の小さい企業でも会計システムは利用しているでしょうし、より規模の大きい企業であれば、会計以外に販売管理や生産・物流管理、営業支援/マーケティング、人事・給与管理といった基幹系からグループウエアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)まで、幅広くITを活用しているのが普通です。

ビッグデータ活用システムでは、これらのシステムから得られるデータを活用することが多いでしょうから、既存システムとの連携や統合は欠かせません。

米国のコンサルティング会社であるアクセンチュアの調査では、回答者の35%がビッグデータをビジネスで活用する際の課題として「既存システムとの統合」を挙げています。同調査はビッグデータをビジネスに活用している、日本を含む19カ国・7業界の企業の経営幹部を対象に実施したものです(ニュースリリース)。

ただ、ここで考えなければいけないのは、本当にビッグデータ活用システムを全て新たに構築すべきか、という点です。既存システムの一部を改変するだけで十分かもしれません。パッケージソフトなどを利用しているのであれば、バージョンアップすればビッグデータ活用が可能になるケースもあり得ます。こうした場合は、既存システムとの連携や統合をほとんど(場合によっては全く)考慮せずに済むようになります。

既存システムの中で、意外と見落としがちなのはクライアント側の環境です。クライアント環境は使い勝手に大きな影響を与えるので、変えずに済むならそれに越したことはありません。

一方、経営層からマネジャー、現場の担当者まで、企業・組織内の誰もがデータ活用の恩恵を受けられるようにするというのが、ビッグデータ活用で目指すべき目標の一つです。現在のクライアント環境のままで、この目標を達成できるのかどうかも、併せて考慮する必要があります。

以下、クライアント環境に話を絞って、ビッグデータ活用システムと既存システム(環境)との関係を考えてみます。

表計算ソフトだと「人間BI」になるおそれも

ビッグデータ活用システムのクライアント環境として、どのような選択肢があり得るのでしょうか。大きく三つが考えられます。

  1. 表計算ソフトを使う
  2. セルフサービスBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使う
  3. 専用クライアント環境を使う

(1)は多くの場合、データを蓄積したシステム(主にサーバー側)からクライアント側にデータをダウンロードし、表計算ソフトで加工して利用する、という流れを取ります。表計算ソフトとして、マイクロソフトの「Microsoft Excel(以下、Excel)」がよく使われています。

従来のデータ活用は(1)が主流でした。現在でも多くの企業が採用しています。表計算ソフトでは高度な処理が可能ですし、企業・組織に所属する人たちの多くが慣れているという強みがあるからです。ビッグデータ活用システムでも採用できるのであれば、利用者は慣れた環境を使い続けることができます。

ただ、(1)を選ぶのが本当に適切かどうかは、よく考える必要があります。あるユーザー企業(A社とします)の例を紹介しましょう。

A社では経理、生産管理、営業といった社内の各部門が表計算ソフト(Excel)を使ってデータを活用していました。手順は以下の通りです。各部門の担当者は、基幹系システムから必要なデータをダウンロードし、表計算ソフトで加工して必要なデータを作ります。その結果を電子メールやファイルサーバーで部門内で共有し、業務に活用します。

その結果、A社では企業全体の生産性が落ちてしまうという問題が生じていました。表計算ソフトでグラフを作成するためには、対象となるデータの表を先に作っておく必要があります。そのため、テータの分析・利用を試行錯誤しながら進めようとすると、どうしても手間がかかってしまうのです。

A社の担当者は「表計算ソフトでデータを作ることが業務になっていた。まさに『人間BI』の状態だった」と振り返ります。「本来の目的は、意思決定をしたり、将来の戦略を話し合ったりするためにデータを活用することだったはず。ところが、データを作って終わりの状況になっていた」というのです。

これは4年ほど前の話で、A社は基幹系システムの刷新と同時に、新たなデータ活用環境を整備したということです。

「セルフサービス」でBIを実践可能に

ここ数年で採用実績が増えつつあるのが、(2)のセルフサービスBIツールです。「セルフサービス」という言葉から想像が付くように、現場の担当者自身がビッグデータを手軽に扱えるようにすることを狙っています。「データビジュアライゼーションBI」「データディスカバリーBI」などとも呼びます。

セルフサービスBIツールは(1)の弱点をカバーする存在といえます。データサイエンティストのようなデータ分析の専門家でなくても、グラフを効率よく作成したり、データを分析したりできます。

製品は国内外のベンダーが提供しています。ウイングアーク1stの「MotionBoard」、クリックテック・ジャパンの「QlikView」「Qlik Sense」、タブロージャパンの「Tableau」、日本マイクロソフトの「Power BI」などがあります。

これらの製品は、それぞれ機能や使い勝手、特徴が異なるので注意が必要です。これらを使い分けた良品計画の例を紹介します。

良品計画は2種類のセルフサービスBIツールを利用しています。一つはTableau、もう一つはPower BIです(図1)。

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図1

なぜ二つのツールを使う必要があったのでしょうか。同社は当初、Tableauだけを利用していました。ところが、データ分析の専門部署にデータ分析の依頼が殺到するようになりました。Tableauを使ってデータを加工し、分析を深めるには一定の知識が必要だったからです(2014年時点)。

そこで、Excelと同じように操作できるPower BIを併用する方針を採りました。定型的なデータ分析・加工は、担当者みずからPower BIで実行できます。

もう一つの選択肢、専用クライアント環境

ビッグデータ活用システムのクライアント環境として、もう一つ選択肢があります。(3)の「専用クライアント環境」です。

専用クライアント環境としては、オープンストリームの「Biz/Browser」などがあります。Biz/Browserが登場したのは1998年で、当時はWebアプリケーションの使い勝手を改善するリッチクライアント環境と呼ばれていました。この種の製品として代表的なものの一つだったので、覚えている方もいるでしょう。

Biz/Browserはその後も「クライアント環境のプラットフォーム」として進化を続けています。2016年10月末現在で国内1600社・組織への導入実績があり、「長く使い続けているユーザーが多い」(オープンストリームの山根浩樹 プロダクト事業部製品開発部部長)とのことです。

2017年春には、新バージョンの「Biz/Browser DT」が登場します。オープンストリームの大矢義憲 プロダクト事業部技術統括プロダクトアーキテクトは「次の10年に向けて、アーキテクチャーを全面的に改変した」と説明します。

Biz/Browser DTでの強化点の一つがグラフィック機能です。グラフやアニメーションを作成するライブラリを強化し、表現力を高めています(図2)。

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図2

新版では、これまでBiz/Browserとは別に提供していた開発環境をBiz/Browserに組み込み、グラフィックライブラリを使った開発を容易にしています。

このほか、表計算を実行するスプレッド機能を強化。「機能をゼロから作り直し、Excelと比べてもそん色のない操作性を実現した」(大矢氏)といいます。マルチプラットフォーム化も進めていく方針で、当初はWindows版のみですが、MacOS版やLinux版も順次提供する予定です。

グラフィックやスプレッドといった機能の強化やマルチプラットフォーム化により、Biz/Browserでビッグデータ活用システムのクライアント環境を実現しやすくなったといえます。

自社のニーズに応じて選択

ビッグデータ活用システムのクライアント環境として三つの選択肢を紹介しました。クライアントだけを見ても、選択肢は多岐にわたることを実感していただけたと思います。

ここで「既存システムをガラリと変えないと実践できないのでは?」という問いに立ち戻りましょう。もうお分かりですね。クライアント環境だけを考えても、「必ずしもそうとは言えません。

どのような既存システムを使っているのか。ビッグデータ活用の際に、現場でどれだけデータを加工・活用するつもりなのか。利用者層をどこまで広げるのか。利用者のITリテラシー(ITを使いこなす力)はどの程度か──(1)~(3)のどれが最適なのかは、これらによって変わります。

(1)の表計算ソフトは「人間AI」を招くので、できれば避けたいところですが、「それでもいい。使い勝手が大切」という判断もあり得ます。現場でデータを加工・活用したいのであれば、新たに(2)のセルフサービスBIを導入することも有効でしょう。

(3)を既に利用しているのであれば、バージョンアップすることでニーズにかなうクライアント環境を実現できる可能性があります。様々な環境変化に耐え得るクライアント環境の実現に向けて、新規導入するケースもありそうです。

一つ言えるのは「既存システムをガラリと変えないと実践できない」といった思い込みや先入観は避けるべき、ということです。これはクライアント環境に限らず、全ての既存システムに関して言えます。

これをお読みの皆さんの会社・組織にとって、どれがビッグデータ活用システムのクライアント環境として最適でしょうか。ぜひ考えてみてください。

次回はビッグデータ活用プロジェクトの進め方を取り上げる予定です。

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